前回の日記に書いた通り、イベント尽くしな毎日です。
William Ross(ウイリアム・ロス)の講義は全部で2時間×6回もあり、これまで行われた4回全てに出席してきました!そのために授業をひとつ、そしてテストをひとつサボりました。貴重な講義ですからね。
ウイリアム・ロスは150以上の映画に作曲やオーケストレーションで関わっています。
オーケストレーションとは、簡単なスケッチのものからオーケストラの編成に編曲することで、ハリウッドでは多くの場合作曲家はオーケストレーターと一緒に仕事をします。スター・ウォーズやE.T、ハリー・ポッターでおなじみのジョン・ウイリアムズもこういったオーケストレーターと一緒に仕事をしています。
多くの場合作曲家はオーケストラに関しても十分な能力を持っているのですが、分業をすることで仕事のスピードを早めているわけですね。
というわけで作曲家とオーケストレーターのコミュニケーションはとても大事です。
ウイリアム・ロスがオーケストレ−ターとして参加したもので代表的なものは、フォレスト・ガンプ(作曲はアラン・シルベストリ)、タイタニックのメインテーマであるセリーヌディオンの"My heart will go on"、そしてハリー・ポッターなどがあります。
ハリー・ポッターは”ハリー・ポッターと秘密の部屋”において作曲も担当しています。本来やるはずだったジョン・ウイリアムズが他の映画とバッティングしてしまったため彼がやることになったのだそう。
現場で活躍する人から直接いろいろ教えてくれるということでとても期待して行ったわけですが、期待をはるかに上回る素晴らしいレクチャーをしてくれました。
その内容は、作曲、編曲、オーケストレーション、そしてスピリチュアルなことや人生(!)に至るまでの幅広くそして濃いものであり、とてもここでは書ききれません。ハリー・ポッターの仕事で作ったスケッチやスコア、デモ音源を見せて説明したり、なんとその場で彼が作曲・オーケストレーションをするというような内容まであり、僕たちフィルムスコアリングを学ぶ者にとっては嬉しすぎるものでした。
全部はとても書ききれませんが、彼が繰り返し何度も言っていたことで特に重要なことを書いてみたいと思います。
【Structure】
オーケストレーションに関してですが、とにかく”Structure”が一番大事なんだ、ということでした。
Structureとは”構造”。
ぱっとオーケストラのスコアを見ると、特にハリウッドの大きな編成のものは音符の数が多くてものすごく複雑に見えるわけだけど、実際はすごくシンプルだということです。
実は構造というものから考えると音楽の中で同時に鳴っているものは多くの場合で2つか3つのElement(要素)、本当に多いときでも4つか5つしかない。要素とは、例えばメロディ。例えばカウンター・ライン。例えばパッド(ふわーっと後ろで鳴る感じのコード)。
人間の耳の仕組みからして、同時にいくつものことをやってもそれは認識できない。無駄に増やすよりも、2つや3つの要素がガツンと鳴るだけでそれはすごい力を持つんだということです。
音符のひとつひとつはもちろん大事だけど、そんなことよもまずStructureを考える。
例えば、、
・ストリングスの高音でメロディ
・ホルンでカウンターライン
・低音でEフリジアン・スケールを使ってぐちゃぐちゃ〜(と言いながらピアノの低音を適当に手のひらで抑えていた)
これで終わり!You're doneなんだ!と。
実際の音符を考えるのは後の段階だし、この"Structure"がしっかりしているのがまず一番。
こんなことを実際にハリー・ポッターのものすごい派手なオーケストラ曲を聴かせてくれながら説明してくれるわけですよ。
説得力ありすぎ。
【Resolve Problems】
彼がいつも使う表現は”Problem”の"Resolve"。問題の解決です。
これは僕も映像に音楽をつけていてすごくよく分かります。
映画音楽の作曲(編曲)、やっていることは「作曲」なんですが、それよりも映像に対して「どう対処するか、どうアプローチするか」の解決策を模索する作業だという意識が強い。
こないだ作ったX-FILESでも、あらゆる場面で「どうしよう」→「こうしてみよう」→「うまくはまった!(もしくは、はまらなかった! もしくは、はまったけどもっと別の解決策がありそう)」というプロセスを経ていました。
映像に対して音楽がうまくはまった時、この世界では”It worked!”というような言い方をします。
普通の作曲でも何かうまくいったことに対してそういう言い方をすることはあるのですが、映画音楽の場合は特に、一番大事なのは何をさしおいても映像ですので映像に対して"Work"という表現はとてもしっくり来ます。
彼が例として出したのは”Forest Gump”のオープニングタイトル。
フォレスト・ガンプの人柄、柔らかさを出すために、ストリングスのパートに全部ミュートをつけたことがとてもWorkしたそうです。
他にもいろんな例を出してくれました。
【スコアをアナライズしなさい】
まあ誰もが言うことですが、オーケストレーションを勉強するにはスコアを勉強しまくるべきだ、と。
そのとき、何か面白い曲を見つけてスコアを買って「さあ、アナライズするか!」と言って最初から始めると面白いと思った部分にたどり着く前に途中で寝てしまうので(笑)、曲を聴いて面白い!スコアを見たい!と思ったところを重点的に見てみるのが良いと言ってました。
でも彼の場合はすごい努力家なので、それをコンデンス・スコア風(下の写真参照)に書き直したりもしているわけです。John Williamsのようなオーケストラが書きたい、と言うのが彼の最初のゴールだったようで、昔スター・ウォーズのテーマをコンデンス・スコア風にしたものを配って見せてくれました。
こんなやつです。
定規まで使ってしっかり書いてます。。。
手で書いて、マッスルメモリー(筋肉の記憶)として覚えるということが実はすごく力になる。マッスル・メモリーとは車や自転車を運転するようなものですね。一度覚えてしまうと忘れない。
例えばスコアを丸写しするというのもすごく良い勉強になる。コピー機がなかった時代、有名なクラシックの作曲家も過去の作曲家のスコアを手書きで書き写していたわけで、それがその作曲家のオーケストレーションの能力に繋がらなかったわけはない。
などなど。
技術的な話ばかり書いてしまいましたが、他にも本当にたくさんの良いことを言ってくれました。繰り返しになりますが、全部はとても書ききれないし今書いたことも大分省略してしまっています。ですので彼の言ったことの意図がうまく表現出来きれてるとはとても思えません。読んでくれている方には申し訳ないですが・・・。
びっくりしたのは、彼のバイオグラフィー。
まず、彼の出身は全く音楽家の家系ではないそうです。ただ単にピアノを弾くのが好きだっただけ。ピアノの腕はhorrible、最悪だと自分で言ってました。絶対音感なんかももちろんありません。
大学までは親に言われるがままに生物学(だったかな?)をやっていたそうですがそこでとある人物に出会い、本当にやりたいことは何か?を考えて音楽をやることにしたんだそうです。
日本ではこういう分野においては2世や3世の音楽家、もしくは英才教育を受けた音楽家が非常に多いと思いますがアメリカにはこういう人もいるんですねえ。
そういえば以前話をしてくれたハワード・ショアも音楽を始めたのは遅かったと思います。
そういう人でも多大な、本当に多大な努力で第一線で活躍する音楽家にまでなっているというのは、なんだか勇気をくれます。僕も本格的に音楽を始めたのは遅かったですから。。。
日本にいた時は特にそれがコンプレックスでもありました。それが引き金になって自分の才能に疑問を持つこともしょっちゅうでした。
この話からだけじゃなくて普段から感じることですが、アメリカっていやなところも腐るほどあるんですけど(出たよアメリカ・・・と良く言っている)、頑張れば何でもできるんだぞっていう気にさせてくれる力もある。そんな所です。
凄い、凄くないということを安易に”才能”という言葉で片付けない、そして周りと比較をしないので素直に褒めるところは褒める、という国柄からなんでしょうか。
それで調子にのって変な自信を持ってしまうのは危険ですが、そういうわけでもない。
今もヘコむときはありますしね。
とにかく、そういう点では何とも居心地が良いです。
と・・・ウイリアム・ロスについて書いていたつもりがいつの間にか自分の話に(笑)
彼のレクチャーは明日もあり、明日は学生のバークリー生活最後のプロジェクト、日本で言う卒業制作のようなものを彼が観て批評するという内容になります。
僕はまだそのプロジェクトはやっていないので、明日批評してもらえる人が何ともうらやましいですねー。
明日も楽しみです。
さて、話は変わってその後まーちゃんという日本人ベーシストのポートフォリオ・リサイタルに行ってきました。
ポートフォリオ・リサイタルとはいわゆる卒業コンサート。
まーちゃんは、多くの素晴らしいプレイヤーがいるバークリーの中でも本当にうまいベーシストで、今日のリサイタルはもうめちゃくちゃかっこ良かった!
MCで緊張しているのは見えましたが、プレイに入るととてもクール。プレイした曲もかっこよく、素直に手放しで良かった!と言える内容でした。
終わった後声をかけに行ったら、全てが終わってほーーーっとした顔をしていました。すごいプレッシャーだった、と言っていました。
地獄のバークリー生活の締めくくりとなるこのコンサート。彼はいつもすごく頑張っていて忙しそうにしているのを見ていたので、なんだかとても感動的でした。
たくさんのエナジーをもらいました。ありがとう。
良い刺激に良い音楽。
最近、留学生活も最後の方にしてなんだか音楽に対する考え方にものすごい変化があって、それに応じるようにいろんなものの見方も変わってきているような気がしてすごく楽しいです。